優しい触れあい
新しい出会いを綴る
女のリポート100選
その62
埼玉県 深谷市
M・Sさん 52歳
私は今も病院の事務の仕事をしています。18歳の時から35年になります。
事務職員として毎日患者さんたちとお付き合いさせていただきましたが、私自身は重い病気にかかったことは一度もありません。だから患者さんのことを、分かっていたつもりでも、本当のところは、全く分かっていませんでした。そのことを最近、思い知らされました。
2ヶ月前、椎間板ヘルニアになって入院。生まれて初めて患者の立場になったからです。私が働いていた病院は内科だったので、別の病気に入院しました。
入院は1ヶ月。病室の天井と睨めっこの毎日でした。歩くことも出来ない。当たり前だと思っていたことが、何も出来ない。ちょっと寝返りを打つと、激痛が走る。初めて味わう、患者としての苦痛と苛立ち。私は何も分かっていなかったと思い知らされました。
入院中、わずかにホッとするひと時がありました。病室の掃除をしてくださった60代半ばの女性が、とっても気が付く優しい方で、ベッドを整える時は、いつも労りの言葉を掛けてくれました。
「まだ具合が悪そうだね。でも必ず治るから焦らないことよ」
毎日の一言がどれだけ励みになったことか知れません。かろうじて歩けるようになった頃、その女性にこんなことを言われました。
「だいぶ良くなって来たけど、右足がまだ痛いようね」
「どうしてそんなことが分かるんですか?」
「ほらっ、そのスリッパ、右の方だけに埃がたくさんくっついているでしょう」
右足をかばって引きずって歩くと、そうなるというのです。
私はその女性の洞察力に感心してしまいました。患者さんのことを本気で心配するからこそ、洞察力も生まれたのでしょう。わが身を振り返って、ひどく反省しました。
病院の事務職として働いた35年間、患者さんを本気で思いやったことがあったでしょうか。自分の仕事だけで精一杯で、ただバタバタ走っていただけのような気がします。
その女性は、よくこんなこともおっしゃっていました。
「この年で働けるのは有り難いことです」
今まで、私には仕事への感謝の気持ちもありませんでした。
退院して1ヶ月、入院生活は辛かったけど、自分の人生を初めて見つめ直すことが出来ました。人間として一番大切な、労りと感謝の気持ち。肝心なことを私は忘れてしまっていた。腰はまだ痛いけれど、とっても穏やかな気持ち。
近いうちに、あの女性に会いに行きます。抱えきれないほどの感謝を胸に。
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